Ⅱ章 治療法


内視鏡的切除

内視鏡的切除の種類

EMR(Endoscopic Mucosal Resection)

胃の粘膜病変を挙上して鋼線のスネアをかけ,高周波により焼灼切除する方法である。

ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)

高周波ナイフを用いて病巣周囲の粘膜を切開し,さらに粘膜下層を剝離して切除する方法である。


内視鏡的切除における標本の取扱い

標本の取扱い

切除標本の取扱いは,胃癌取扱い規約第14版に準ずる。

分化型癌と未分化型癌

生検および内視鏡的切除後の組織像について,分化型癌と未分化型癌を区別する。胃癌取扱い規約第14版の組織型分類のうち,悪性上皮性腫瘍・一般型の pap,tub1,tub2 を分化型癌とし,por1,por2,sig,muc を未分化型癌とする。

組織学的優位性および UL の評価

分化型癌と未分化型癌が混在する場合は,優勢な組織像に従って分類する。また複数の組織型が混在する場合は,量的に優勢な組織型から順に記載する(tub2>tub1など)。UL は組織学的な UL の存在をもって UL(+)と判定するが,UL の判定はしばしば病理学的にも困難であり,内視鏡やX線等の画像診断所見も考慮して最終判定することが望ましい。


内視鏡的切除の適応

本ガイドラインでは初版以来,下記の「絶対適応病変」に対する ESD・EMR を日常診療として推奨し,「適応拡大病変」に対する ESD を臨床研究として位置づけてきている。後者に関しては「Ⅲ章 A.臨床研究としての治療法の解説」に記述すべきではあるが,多くの施設で適応拡大病変の全部または一部に対して日常的に ESD が試みられている現状と,ESD の根治性の評価および ESD 後の治療方針決定の重要性を考慮し,本項で「絶対適応病変」と併せて記述することとした。適応拡大病変に対する ESD にはまだ十分なエビデンスがなく,慎重に試みられるべき治療法であることを再認識されたい。

適応の原則

リンパ節転移の可能性が極めて低く〔ⅢA-1表 4 参照〕,腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること。

絶対適応病変

2cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)と診断される分化型癌。肉眼型は問わないが,UL(-)に限る。

適応拡大病変

① 2cmを超える UL(-)の分化型 cT1a, ② 3cm以下の UL(+)の分化型 cT1a,③ 2cm以下の UL(-)の未分化型 cT1a,については脈管侵襲(ly,v)がない場合にはリンパ節転移の危険性が極めて低く,適応を拡大してよい可能性がある84,86)。これらの病変はEMRでは不完全切除となる可能性が高いため,ESD を行うべきである。現時点では長期予後に関するエビデンスが乏しいため,JCOG0607 等の結果が出るまでは,臨床研究として行うべきである〔ⅢA-1参照〕。

遺残再発病変に対する適応

初回の EMR/ESD 時の病変が適応内病変で,その後に粘膜内癌で局所再発した病変であれば,適応拡大病変として取り扱うことが可能である。しかし,再 ESD を支持する明確なエビデンスはなく,症例数の多い長期経過観察のデータが得られるまでは臨床研究として行うことが望ましい。


内視鏡的切除の根治性

根治性の評価

EMR および ESD の根治性は,局所の完全切除とリンパ節転移の可能性なしという2つの要素によって決定され,この2つの要素のどちらが欠けても遺残再発もしくはリンパ節転移による再発の可能性が残り,治癒切除とはならない。

1)治癒切除
腫瘍が一括切除され,腫瘍径が2cm以下,分化型癌で,深達度が pT1a,HM0, VM0,ly(-),v(-)であること。これらがすべて満たされた場合を治癒切除とする。

2)適応拡大治癒切除  
一括切除が施行され,切除標本が, ① 2cmを超える UL(-)の分化型 pT1a, ② 3cm以下の UL(+)の分化型 pT1a, ③ 2cm以下の UL(-)未分化型 pT1a, ④ 3cm以下の分化型かつ深達度が pT1b(SM1)(粘膜筋板から500μm未満),のいずれかであり,かつ HM0,VM0,ly(-),v(-)であった場合を適応拡大治癒切除とする。
ただし,上記のうち未分化型成分が混在する分化型癌症例に関してのエビデンスはいまだ十分とはいえず,当面,以下の症例は非治癒切除として扱い追加外科切除とする: ① で,未分化型成分が長径で2cmを超えるもの; ② で未分化型成分を有するもの; ④ で SM 浸潤部に未分化型成分があるもの。

3)非治癒切除
上記の絶対適応・拡大適応の治癒切除条件に1つでも当てはまらない場合を非治癒切除とする。


EMR/ESD 後の治療方針

切除後の病理診断により根治度の判定を行い,その後の方針を決定する。

治癒切除の場合

H. pylori 感染の有無を検査し,陽性者では除菌を行う104)。年に1~2回の内視鏡検査による経過観察が望ましい。

適応拡大治癒切除の場合

H. pylori 感染の有無を検査し,陽性者では除菌を行う。経過観察では,年に1~2回の内視鏡検査に加えて,腹部超音波検査,CT 検査などで転移の有無を調べることが望ましい。

非治癒切除の場合

1)追加外科切除を必須とする非治癒切除
以下の2)以外の非治癒切除の場合には外科切除を選択する。

2)追加外科切除を必須としない非治癒切除
分化型癌の一括切除で側方断端陽性または分割切除のみが非治癒因子であった場合,転移の危険性は低い。この場合には,施設の方針により,患者へのインフォームド・コンセントの後,再 ESD,追加外科切除,切除時の焼灼効果(burn effect)に期待した慎重な経過観察,焼灼法(レーザー,アルゴンプラズマ凝固など)を選択する。ただし,適応拡大病変に対する ESD のうち,① 分化型,pT1a(M),UL(+),3cm以下,および ② 分化型,pT1b(SM1),3cm以下,の場合には内視鏡を再検し遺残の大きさを確認する。遺残癌の大きさと ESD 標本内の癌の大きさの合計が30mmを超える場合は追加外科切除とする。また,SM 浸潤部で分割切除あるいは断端陽性になった場合にも,病理診断そのものが不確実となるため,追加外科切除とする。

図 6 ESD 後の治療方針アルゴリズム
図 6 ESD 後の治療方針アルゴリズム