胃癌治療ガイドライン 医師用2021年7月改訂 第6版

Ⅲ章 資料

クリニカル・クエスチョン(CQ)

重要臨床課題1鏡視下手術の適応

CQ1 cStageⅠ胃癌に対して腹腔鏡下手術は推奨されるか?(幽門保存胃切除についてはCQ4を参照)

推奨文

標準治療の選択肢の一つとして幽門側胃切除術は行うことを強く推奨する。(合意率 100%(8/8),エビデンスの強さ A)
胃全摘,噴門側胃切除術は,行うことを弱く推奨する。(合意率 100%(8/8),エビデンスの強さ C)
いずれの術式も内視鏡外科学会技術認定取得医ないしは同等の技量を有する術者が行う,あるいは同等の技量を有する指導者のもとで行うことを条件とする。

解説

 本CQに対する推奨の作成を行ううえで,臨床病期Ⅰ期胃癌を対象とする開腹胃切除に対する腹腔鏡下胃切除術を行った場合の,合併症発生率・再発率・生存期間をアウトカムとして設定した。

 MEDLINEで“Gastric cancer”,“Stomach neoplasms”,“Gastrectomy”,“Laparoscopy”,“Robotic surgical procedures”,“Stage 1”,“Stage 2”,“Stage 3”“Quality of life(QOL)”,“Length of stay”,“Postgastrectomy syndrome”のキーワードで検索した。Cochrane Library も同様のキーワードで検索した。検索期間は2000年1月から2019年9月までとした。上記のキーワードにて545編(Cochrane Library 190編,MEDLINE 355編)が抽出された。これにハンドサーチ4編を加えた549編より,一次スクリーニングで172編,二次スクリーニングで32編の論文が抽出された。

 幽門側胃切除術における長期生存については2つのRCTの報告[1,2]があり,JCOG0912試験において,主要評価項目の5年無再発生存率は腹腔鏡下手術で95.1%,開腹術で94.0%であり,腹腔鏡下幽門側胃切除術(LADG)は開腹幽門側胃切除術(ODG)に非劣性であることが示された。どちらの群も治療関連死は認められず,晩期術後合併症についても両群に有意差を認めず,安全性も証明された。本試験の術後短期成績については,ODGとLADGで有意差を認めず,安全性がすでに確認され[3],今回,長期成績もLADGの非劣性が証明された[1]。また,韓国の大規模ランダム化比較試験(KLASS-01)においても,cStageⅠ胃癌におけるLADGの非劣性が証明された[2]

 しかし,これらの試験の結果は適応症例も,医療者側(施設,術者)にも厳格な適格規準が定められており,その結果をわが国全体の日常診療に外挿するには注意が必要である。

 日本全体のリアルワールドで腹腔鏡下胃切除術の安全性を開腹胃切除術と比較,検証するために,NCDのビッグデータを利用して,日本胃癌学会による後ろ向き研究と,日本内視鏡外科学会/腹腔鏡下胃切除研究会による前向き研究とが行われた。

 後ろ向き研究として,2012年1月から2013年12月に登録された症例について,StageⅠとStageⅡ‒Ⅳに分け,傾向スコアマッチングにより検討された。幽門側胃切除について,計70,346例が登録され,マッチングによりStageⅠ(ODG・LADG群:各14,386例),StageⅡ‒Ⅳ(ODG・LADG群:各3,738例)が解析された[4]。すべてのStageにおいて死亡率に有意差は認めなかった。一方,StageⅠではLADG群に有意にグレードB以上の膵液漏が多くみられた(0.8%vs. 1.0%)。

 前向き研究として,2014年8月から2015年7月を登録期間とし,対象が日本全体の代表的なサンプル集団となるように,地域と都市,施設規模と種類から層別化ランダム抽出が行われた。幽門側胃切除では,計5,261例(ODG1,890例,LADG3,371例)が登録され,傾向スコアマッチングにより各群1,067例が抽出された。術後合併症発生率,死亡率ともにODGと同等であったが,グレードB以上の膵液漏がLADGに有意に多くみられ[5],前向き研究と同様の結果となった(1.0%vs. 2.2%)。ただし,NCDデータは,いずれも長期成績については明らかでなく,実臨床での長期成績についての解析が待たれる。

 以上より幽門側胃切除の対象となるcStageⅠに対して,LADGが外科的治療の標準的な選択肢の一つとなり得ると考えられる。しかし,日常診療では膵液漏が開腹手術よりも増加するという報告もあることから,LADGを行う場合は,内視鏡外科学会技術認定取得医ないしは同等の技量を有する術者が行う,あるいは同等の技量を有する指導者のもとで行うことを条件とする。

 cStageⅠ胃上部胃癌の外科的治療の選択肢の一つとして腹腔鏡補助下胃全摘術(LATG)および腹腔鏡補助下噴門側胃切除術(LAPG)を弱く推奨する。

 JCOG1401試験において主要評価項目であるGrade2‒4の食道空腸吻合部の縫合不全発生割合が2.5%でありLATG/LAPGの安全性が証明された[6]。また,在院中のGrade3‒4の全合併症発生割合は29%であり,治療関連死は認めなかった。また,韓国における同様の試験(KLASS-03)においても,cStageⅠ胃癌におけるLATGの安全性が証明された[7]。しかし,これら試験においても,執刀医または指導的助手は,JCOG0912試験と同様に厳格に規定されていた。

 そして,食道胃接合部癌は含まれておらず,食道胃接合部癌に関する安全性は保証されていない。さらに,JCOG1401試験におけるLAPGは食道空腸吻合を含む術式に限定されていた。その他の再建方法,特に食道残胃吻合に関する成績は示されていないことにも注意が必要である。また,いずれの試験でも長期成績の評価は未確定である。

 LADGと同様にNCDのビッグデータを用いた後ろ向き[8],前向きの研究が行われており[9],特に後ろ向きの研究ではLATGにおいて縫合不全の発生割合が有意に高いことが報告されている(3.60%vs 5.70%,p=0.002)。したがって特に導入初期には合併症が多いことには留意しなければならない。

 以上よりcStageⅠの胃癌患者に対するLATG,LAPGは,術後合併症を含めた安全性に関するevidenceはあるが,長期成績のevidenceはなく,標準治療の一つとして内視鏡外科学会技術認定取得医ないしは同等の技量を有する術者が行う,あるいは同等の技量を有する指導者のもとで行うことを条件とし,行うことを弱く推奨する。


引用文献

[1] Katai H, Mizusawa J, Katayama H, et al: Randomized phase Ⅲ trial of laparoscopy-assisted versus open distal gastrectomy with nodal dissection for clinical stageⅠA/ⅠB gastric cancer(JCOG0912). J Clin Oncol 2019; 37: 4020.

[2] Kim HH, Han SU, Kim MC, et al: Effect of Laparoscopic Distal Gastrectomy vs Open Distal Gastrectomy on Long-term Survival among Patients with StageⅠ Gastric Cancer: the KLASS-01 Randomized Clinical Trial. JAMA oncol 2019; 5: 506‒13.

[3] Katai H, Mizusawa J, Katayama H, et al: Short-term surgical outcomes from a phase Ⅲ study of laparoscopy-assisted versus open distal gastrectomy with nodal dissection for clinical stageⅠA/ⅠB gastric cancer: japan Clinical Oncology Group Study JCOG0912. Gastric cancer 2017; 20: 699‒708.

[4] Yoshida K, Honda M, Kumamaru H, et al: Surgical outcomes of laparoscopic distal gastrectomy compared to open distal gastrectomy: A retrospective cohort study based on a nationwide registry database in Japan. Ann Gastroenterol Surg 2018; 2: 55‒64.

[5] Hiki N, Honda M, Etoh T, et al: Higher incidence of pancreatic fistula in laparoscopic gastrectomy. Real-world evidence from a nationwide prospective cohort study. Gastric Cancer 2018; 21: 162‒70.

[6] Katai H, Mizusawa J, Katayama H, et al: Single-arm confirmatory trial of laparoscopyassisted total or proximal gastrectomy with nodal dissection for clinical stageⅠ gastric cancer: Japan Clinical Oncology Group study JCOG1401. Gastric Cancer 2019; 22: 999‒1008.

[7] Hyung WJ, Yang HK, Han SU, et al: A feasibility study of laparoscopic total gastrectomy for clinical stageⅠ gastric cancer: a prospective multi-center phaseⅡ clinical trial, KLASS 03. Gastric Cancer 2019; 22: 214‒22.

[8] Kodera Y, Yoshida K, Kumamaru H, et al: Introducing laparoscopic total gastrectomy for gastric cancer in general practice: a retrospective cohort study based on a nationwide registry database in Japan. Gastric Cancer 2019; 22: 202‒13.


CQ2 cStageⅡ,Ⅲ胃癌に対して腹腔鏡下手術は推奨されるか?

推奨文

cStageⅡ,Ⅲ胃癌に対する腹腔鏡下手術について,現時点では明確な推奨ができない。
(合意率 71.4%(5/7),エビデンスの強さ C)

解説

 MEDLINEで“Gastric cancer”,“Stomach neoplasms”,“Gastrectomy”,“Laparoscopy”,“Robotic surgical procedures”,“Stage 1”,“Stage 2”,“Stage 3”“Quality of life(QOL)”,“Length of stay”,“Postgastrectomy syndrome”のキーワードで検索した。Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2000年1月から2019年9月までとした。上記のキーワードにて545編(Cochrane Library 190編,MEDLINE 355編)が抽出された。一次スクリーニングで110編,二次スクリーニングで 11 編の論文が抽出された。さらに 2019年10月から2020年9月までに発表された論文からハンドサーチで1編を追加した。内容は7編のランダム化比較試験(RCT,5編は幽門側胃切除術のみ),1つのメタアナリシス(1編のRCT,13編の非RCTを含む),3編の後方視的観察研究であった。

 幽門側胃切除術における長期成績については3編のRCTの報告があり,中国では大規模な第Ⅲ相試験(CLASS-01試験 計1,039例)が行われ,3年無再発生存率は腹腔鏡下手術で76.5%,開腹術で77.8%であり,腹腔鏡下幽門側胃切除術は開腹幽門側胃切除術に非劣性であることが示された。3年再発率でも腹腔鏡下手術18.3%,開腹術16.3%で差はなく,再発部位の検討でも差はなかった[1]。韓国でのCOACT1001試験は第Ⅱ相で計196例の小規模なものであったが,3年無再発生存率は腹腔鏡下手術で80.1%,開腹術81.9%であり有意差はなかった。ステージ別の検討でも差を認めなかった[2]。韓国では進行胃癌に対する大規模な第Ⅲ相試験(KLASS-02試験 計1,050例)が行われ,3年無再発生存率は腹腔鏡下手術で80.9%,開腹術で81.3%であり,腹腔鏡下幽門側胃切除術は開腹幽門側胃切除術に非劣性であることが報告された[3]。しかし,解析対象集団の変更に関して対象集団の定義の妥当性に関する疑問,別集団(論文中ではITTと表現)ではnegativeで結果が安定していないなど,統計学的観点から本試験で腹腔鏡下手術の非劣性が証明されたとは判断できないとの指摘もある。胃全摘を含めた長期成績については1編の小規模のRCT(計96例)[4],1編のメタアナリシス[5],2編の観察研究[6,7]しかないが,胃全摘を含む報告でも無再発生存期間および全生存期間において腹腔鏡下手術と開腹術で有意差はなかった。

 術後合併症は3編の幽門側胃切除術におけるRCTで腹腔鏡下手術と開腹術で有意差はなかった[2,8,9]。しかし中国でのCLASS-01試験では腹腔鏡下手術で縫合不全が多い傾向があった[7]。胃全摘を含む他の2編のRCTでも術後合併症に有意差はなかった[4,10]。また非RCTを多く含むメタアナリシスでは腹腔鏡下手術は開腹術より術後合併症が有意に少なかった[5]。本邦の幽門側胃切除術におけるRCT(JLSSG0901試験)は第Ⅱ相部分の腹腔鏡下手術の術後合併症について公表されているが,重篤なものは非常に少なかった[11]。しかし本邦の2012年から2013年のNational clinical database(NCD)を用いた胃全摘術の観察研究では,腹腔鏡下手術は開腹術に比して縫合不全が有意に多かった[12]

 本邦ではJLSSG0901試験(計507例,2021年8月追跡調査終了)は,近日中に結果が公開される予定である。JLSSG0901試験における腹腔鏡下手術群での出血量点推定値は30mL,手術時間点推定値は296分と報告されており,これらは,CLASS-01試験(出血量105.5mL/手術時間217.3分)やKLASS-02試験(出血量152.4mL/手術時間227分)と大きく異なっていた。CLASS-01試験やKLASS-02試験における腹腔鏡下手術は,JLSSG0901試験に比し,出血量や手術時間の点で開腹手術との差が小さく,本邦とは手技の詳細が異なっている可能性も示唆される。

 以上より,CLASS-01試験やKLASS-02試験の結果を本邦に外挿し腹腔鏡下手術を推奨する根拠は現時点では十分ではなく,JLSSG0901試験の結果を待つ必要があり,現時点では明確な推奨ができない。


引用文献

[1] Yu J, Huang C, Sun Y, et al: Effect of Laparoscopic vs Open Distal Gastrectomy on 3-Year Disease-Free Survival in Patients With Locally Advanced Gastric Cancer: the CLASS-01 Randomized Clinical Trial. JAMA 2019; 321: 1983‒92.

[2] Park YK, Yoon HM, Kim YW, et al: Laparoscopy-assisted versus Open D2 Distal Gastrectomy for Advanced Gastric Cancer: Results From a Randomized PhaseⅡ Multicenter Clinical Trial(COACT 1001). Ann Surg 2018; 267: 638‒45.

[3] Hyung WJ, Yang HK, Park YK, et al: Long-Term Outcomes of Laparoscopic Distal Gastrectomy for Locally Advanced Gastric Cancer: The KLASS-02-RCT Randomized Clinical Trial. J Clin Oncol 2020; 38: 3304‒13.

[4] Cai J, Wei D, Gao CF, et al: A prospective randomized study comparing open versus laparoscopy-assisted D2 radical gastrectomy in advanced gastric cancer. Dig Surg 2011; 28: 331‒7.

[5] Zou ZH, Zhao LY, Mou TY, et al: Laparoscopic vs open D2 gastrectomy for locally advanced gastric cancer: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2014; 20: 16750‒64.

[6] Leung K, Sun Z, Nussbaum DP, et al: Minimally invasive gastrectomy for gastric cancer: A national perspective on oncologic outcomes and overall survival. Surg Oncol 2017; 26: 324‒30.

[7] Li Z, Liu Y, Hao Y, et al: Surgical and long-term oncologic outcomes of laparoscopic and open gastrectomy for serosa-positive(pT4a)gastric cancer: A propensity score-matched analysis. Surg Oncol 2019; 28: 167‒73.

[8] Hu Y, Huang C, Sun Y, et al: Morbidity and mortality of laparoscopic versus open D2 distal gastrectomy for advanced gastric cancer: a randomized controlled trial. J Clin Oncol 2016; 34: 1350‒7.

[9] Wang Z, Xing J, Cai J, et al: Short-term surgical outcomes of laparoscopy-assisted versus open D2 distal gastrectomy for locally advanced gastric cancer in North China: a multicenter randomized controlled trial. Surg Endosc 2019; 33: 33‒45.

[10]Shi Y, Xu X, Zhao Y, et al: Short-term surgical outcomes of a randomized controlled trial comparing laparoscopic versus open gastrectomy with D2 lymph node dissection for advanced gastric cancer. Surg Endosc 2018; 32: 2427‒33.

[11]Inaki N, Etoh T, Ohyama T, et al: A Multi-institutional, Prospective, PhaseⅡ Feasibility Study of Laparoscopy-Assisted Distal Gastrectomy with D2 Lymph Node Dissection for Locally Advanced Gastric Cancer(JLSSG0901). World J Surg 2015; 39: 2734‒41.

[12]Kodera Y, Yoshida K, Kumamaru H, et al: Introducing laparoscopic total gastrectomy for gastric cancer in general practice: a retrospective cohort study based on a nationwide registry database in Japan. Gastric Cancer 2019; 22: 202‒13.


CQ3 胃癌に対してロボット支援下手術は推奨されるか?

推奨文

cStageⅠ胃癌に対してはロボット支援下手術を行うことを弱く推奨する。ただし,内視鏡外科学会の技術認定を取得し,この手術に習熟した医師が行う,および内視鏡外科学会が認定したプロクターの指導下に消化器外科学会の専門医を有する医師が,施設基準を満たした施設で行うことを条件とする。(合意率100%(8/8),エビデンスの強さ C)

解説

 本CQのアウトカムとして「再発」,「生存」,「術後合併症」を設定し,PubMed,Cochrane Library でキーワードを“Robotics”,“Gastrectomy”,“Stomach Neoplasms”,“Cost-Benefit”,“Quality of Life”,“Post Gastrectomy Syndromes”とし,文献検索を行い,510編が抽出された。一次スクリーニングで78編,二次スクリーニングで26編の論文が抽出された。

 胃癌に対するロボット支援下胃切除(Robotic Gastrectomy,RG)と腹腔鏡下胃切除(Laparoscopic Gastrectomy,LG)の成績を比較した研究のほとんどは,単施設の小規模後ろ向き研究[1]やそれらを用いたシステマティックレビュー[2],メタアナリシス[3]である。

 多施設共同前向き試験は術後合併症等の術後短期成績を検討した韓国のcT1‒3かつextraperigastric lymph node転移陰性を対象とした非ランダム化比較試験(NCT01309256)[4]および,本邦で行われたcStageⅠ/Ⅱを対象とした先進医療B「内視鏡下手術用ロボットを用いた腹腔鏡下胃切除術」[5]の2つのみである。韓国での非ランダム化比較試験(NCT01309256)では,術後全合併症率がRG13.5%,LG14.2%(p=0.817)であり,Clavien-Dindo分類Ⅲa以上の合併症がRG1.3%,LG1.4%(p=0.999)と両群で同等であったと報告している。本邦での先進医療BではClavien-DindoⅢa以上の合併症率がRGで2.45%であり,ヒストリカルコントロールのLGでの6.4%と比較して有意に低減した(p=0.018)と報告している。現在JCOGにおいて,cT1‒2N0‒2胃癌におけるロボット支援下胃切除術の腹腔鏡下胃切除術に対する安全性における優越性を検証するランダム化比較試験が進行中である。

 術後合併症に関する後ろ向き研究は相当数あり,その頻度はRGとLGは同等であるという報告が多い[6‒8]が,本邦からの論文では先進医療Bと同様に,RGはLGに比べ術後合併症が減少するという報告[9,10]が散見される。

 再発率や生存期間等の長期成績はRGとLGは同等であるという後ろ向き観察研究が少数あるのみである。また,RGの比較対象であるLGの長期成績に関しては,cStageⅠを対象としたJCOG0912, KLASS-01により開腹幽門側胃切除術に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の非劣性が証明されているが,cStageⅡ以上に関しては進行胃癌を対象とした安全性と長期成績を検討するJLSSG0901の結果を待つ必要がある。

 その他の知見として,RGはLGと比較して,出血量は同等または低下,手術時間は延長,摘出リンパ節個数は同等という報告がある。ラーニングカーブがRGでは短縮され,医療費はRGでより高額になるという報告もある。

 以上より,RGはLGと同等の安全性と合併症軽減の可能性を有するものの,長期成績については不明である。したがって,施設基準を満たした施設において,内視鏡外科学会の技術認定を取得し,この手術に習熟した医師が行う,ないしは内視鏡外科学会が認定したプロクターの指導下に消化器外科学会の専門医を有する医師が行うことを条件として,cStageⅠに対してはRGを施行することを考慮してもよいが,患者に対しては,長期成績の不確実性を含めて十分な説明を行うことが望ましい。


引用文献

[1] Kubota T, Ichikawa D, Kosuga T, et al: Does Robotic Distal Gastrectomy Facilitate Minimally Invasive Surgery for Gastric Cancer? Anticancer Res 2019; 39: 5033‒8.

[2] Hyun MH, Lee CH, Kim HJ, et al: Systematic review and meta-analysis of robotic surgery compared with conventional laparoscopic and open resections for gastric carcinoma. Br J Surg 2013; 100: 1566‒78.

[3] Chen K, Pan Y, Zhang B, et al: Robotic versus laparoscopic Gastrectomy for gastric cancer: a systematic review and updated meta-analysis. BMC Surg 2017; 17: 93.

[4] Kim HI, Han SU, Yang HK, et al: Multicenter Prospective Comparative Study of Robotic Versus Laparoscopic Gastrectomy for Gastric Adenocarcinoma. Ann Surg 2016; 263: 103‒9.

[5] Uyama I, Suda K, Nakauchi M, et al: Clinical advantages of robotic gastrectomy for clinical stageⅠ/Ⅱ gastric cancer: a multi-institutional prospective single-arm study. Gastric Cancer 2019; 22: 377‒85.

[6] Yang SY, Roh KH, Kim YN, et al: Surgical Outcomes After Open, Laparoscopic, and Robotic Gastrectomy for Gastric Cancer. Ann Surg Oncol 2017; 24: 1770‒7.

[7] Obama K, Kim YM, Kang DR, et al: Long-term oncologic outcomes of robotic gastrectomy for gastric cancer compared with laparoscopic gastrectomy. Gastric Cancer 2018; 21: 285‒95.

[8] Liu HB, Wang WJ, Li HT, et al: Robotic versus conventional laparoscopic gastrectomy for gastric cancer: A retrospective cohort study. Int J Surg 2018; 55: 15‒23.

[9] Suda K, Man-I M, Ishida Y, et al: Potential advantages of robotic radical gastrectomy for gastric adenocarcinoma in comparison with conventional laparoscopic approach: a single institutional retrospective comparative cohort study. Surg Endosc 2015; 29: 673‒85.

[10]Nakauchi M, Suda K, Susumu S, et al: Comparison of the long-term outcomes of robotic radical gastrectomy for gastric cancer and conventional laparoscopic approach: a single institutional retrospective cohort study. Surg Endosc 2016; 30: 5444‒52.


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