胃癌治療ガイドライン 医師用2021年7月改訂 第6版

Ⅲ章 資料

クリニカル・クエスチョン(CQ)

重要臨床課題5cStageⅣ胃癌に対する治療

CQ10 Oligo metastasisに対する外科治療は推奨されるか?

推奨文

No.16a2/b1に限局した少数の大動脈周囲リンパ節転移に対しては,術前化学療法後の外科的切除を弱く推奨する。また,単発の肝転移は,他に非治癒切除因子がない場合,外科的切除を弱く推奨する。(合意率100%(7/7),エビデンスの強さC)

解説

 Oligo metastasis(少数転移)とは,転移巣が1‒2臓器に少数(2‒3個以下)であることを指すことが多いが,厳密な定義はない。胃癌においては,No.16a2/b1に限局した少数の大動脈周囲リンパ節転移,3個以下の肝転移,3個以下の肺転移など,それぞれをOligo metastasisとすることが多い。Oligo metastasisは,転移巣の局所治療により生存期間の延長,さらには根治も期待できるという意味合いも含んでいる。近年の周術期化学療法の進歩,分子標的薬,免疫療法などの開発により,Oligo metastasisの切除によりさらなる治療成績の向上が期待される。本CQではStageⅣ胃癌に対して,Oligo metastasisに対する外科治療が生存期間の延長に寄与するかどうかエビデンスをもとに検討した。

 本CQに対する推奨の作成を行ううえで,Oligo metastasisに対する外科治療を行った場合の生存期間の延長をアウトカムとして設定した。

 PubMedで“Gastric cancer”,“Metastasis”,“Metastasectomy”,“Chemotherapy”,“Gastrectomy”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2019年9月までとした。上記のキーワードにて298編が抽出された,一次スクリーニングで22編,二次スクリーニングで12編の論文が抽出された。

 The AIO-FLOT3 Trial[1]はOligo metastasisに対する外科的切除の意義を検討した唯一の前向き介入研究である。同試験では遠隔転移なしの群,大動脈周囲リンパ節もしくは,肝,肺など1臓器のみに転移のあるOligo metastasis群,Oligo metastasisを超える多数の転移ありの3群で薬物療法後の予後を観察した。非ランダム化試験で,3群間の背景因子は明らかに異なるが,Oligo metastasisのある群は多数の転移がある群よりOSが延長していた。

 JCOGでは,大動脈周囲リンパ節転移(No.16a2/b1)かBulky N2に対してSP療法後に外科切除を行う第Ⅱ相試験(JCOG0405)を実施した。結果,SP療法により82%のR0切除,53%の5年生存が得られ,治療成績が良好であったことから,少数のNo.16a2/b1リンパ節転移に対してはSP療法による術前化学療法が奏功した場合,外科的切除の効果が期待できる。

 Oligo metastasisの外科的切除に関する報告は後ろ向き観察研究が主である。肝転移に関しては従来,転移数が3個までの症例には肝切除による生存期間の延長が報告されていた。しかし,2‒3個の肝転移を有する症例における肝切除と化学療法の治療成績を比較検討した後ろ向き研究では肝切除による生存期間の延長は認めら

れなかった[2]。一方,単発の肝転移に関しては肝切除により生存期間の延長が得られるという報告には一貫性があり,外科的切除の意義があることが示唆される[3‒8]

 肺転移に対する肺切除に関しては,少数報告を集積したreviewでは,肺切除後のDFS中央値は9カ月(範囲3‒65カ月)であるが,OS中央値は45カ月(範囲1‒123カ月)である。ごく限られた症例にのみ,肺切除の有用性が期待できるかもしれない[9]

 以上より,胃癌のOligo metastasisに対する外科治療に関する検討は,背景因子の異なる非ランダム化の前向き介入試験が一つ,第Ⅱ相試験であるJCOG0405,他はすべて後ろ向き観察研究となるため,エビデンスの強さは「とても弱い」となる。

 大動脈周囲リンパ節は術前化学療法を前提とし,肝転移は単発であれば,他に非治癒因子がない場合に,外科的切除により生存期間の延長が得られる可能性が示唆される。


引用文献

[1] Al-Batran SE, Homann N, Pauligk C, et al: Effect of neoadjuvant chemotherapy followed by surgical resection on survival in patients with limited metastatic gastric or gastroesophageal junction cancer: the AIO-FLOT3 trial. JAMA Oncol 2017; 3: 1237‒44.

[2] Shirasu H, Tsushima T, Kawahira M, et al: Role of hepatectomy in gastric cancer with multiple liver-limited metastases. Gastric Cancer 2018; 21: 338‒44.

[3] Markar SR, Mikhail S, Malietzis G, et al: Influence of Surgical Resection of Hepatic Metastases From Gastric Adenocarcinoma on Long-term Survival: Systematic Review and Pooled Analysis. Ann Surg 2016; 263: 1092‒101.

[4] Carmona-Bayonas A, Jiménez-Fonseca P, Echavarria I, et al: Surgery for metastases for esophageal-gastric cancer in the real world: Data from the AGAMENON national registry. Eur J Surg Oncol 2018; 44: 1191‒8.

[5] Kodera Y, Fujitani K, Fukushima N, et al: Surgical resection of hepatic metastasis from gastric cancer: a review and new recommendation in the Japanese gastric cancer treatment guidelines. Gastric Cancer 2014; 17: 206‒12.

[6] Oki E, Tokunaga S, Emi Y, et al: Surgical treatment of liver metastasis of gastric cancer: a retrospective multicenter cohort study(KSCC1302). Gastric Cancer 2016; 19: 968‒76.

[7] Aizawa M, Nashimoto A, Yabusaki H, et al: Clinical benefit of surgical management for gastric cancer with synchronous liver metastasis. Hepatogastroenterology 2014; 61: 1439‒45.

[8] Ueda K, Iwahashi M, Nakamori M, et al: Analysis of the prognostic factors and evaluation of surgical treatment for synchronous liver metastases from gastric cancer. Langenbecks Arch Surg 2009; 394: 647‒53.

[9] Aurello P, Petrucciani N, Giulitti D, et al: Pulmonary metastases from gastric cancer: Is there any indication for lung metastasectomy? A systematic review. Med Oncol 2016; 33: 9.


CQ11 Conversion surgeryは推奨されるか?

推奨文

StageⅣ胃癌症例に対してconversion surgeryを行うことは,化学療法により一定の抗腫瘍効果が得られ,奏効が維持され,R0切除が可能と判断される条件付きで弱く推奨する。(合意率100%(7/7),エビデンスの強さD)

解説

 非治癒因子を有する進行胃癌に対する予後改善を目指す減量手術としての胃切除は,日韓合同で行われたランダム化比較試験(REGATTA試験)において予後改善効果を認めなかった[1]。したがって,出血,穿孔,狭窄等の原発巣に伴う緊急症状を伴わないStageⅣ胃癌に対する治療選択としては,全身化学療法が第一に推奨されている。一方,近年の分子標的薬を含めた抗癌薬治療開発の目覚ましい進歩により,化学療法によって非治癒因子が消失し,癌を遺残なく根治切除(R0切除)することで長期生存が可能となる症例も多くみられるようになってきた。このように,StageⅣ胃癌に対して,化学療法後に根治切除を目指した外科的手術(conversion surgery)が期待されるようになってきた。そこで,本CQではStageⅣ胃癌に対して,conversion surgeryが生存期間の延長に寄与するかどうかエビデンスをもとに検討した。本CQに対する推奨の作成を行ううえで,StageⅣ胃癌に対してconversion surgeryを行った場合の生存期間の延長,術後合併症の増加をアウトカムとして設定した。

 生存期間の延長に関しては,これまでの後方視的検討ではStage Ⅳ胃癌症例のうちconversion surgery により飛躍的な予後の改善が期待できる症例が存在する。しかし,StageⅣ胃癌に対して化学療法を行い,R0切除が可能と判断された時点で化学療法を継続する群とconversion surgery を施行する群に割り付けて生存期間を比較検討したランダム化比較試験はこれまでになく,現在進行中のAIO-FLOT5試験の結果が待たれる[2]。よって,現時点ではStageⅣ胃癌に対してconversion surgeryを行った場合の生存期間の延長については明らかにされていないため,生存期間の延長と術後合併症の増加に関する後方視的検討の該当する論文を紹介する。

 PubMedで“Gastric cancer”,“Conversion surgery”,“Chemotherapy”,“Gastrectomy”,“Metastasis”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2019年9月までとした。上記のキーワードにて298編が抽出された。一次スクリーニングで33編,二次スクリーニングで21編の論文が抽出された。

 StageⅣ胃癌に対してconversion surgeryの有用性を比較したランダム化比較試験は認めなかった。システマティックレビューは2編認められた。Duらは切除不能進行胃癌に対するconversion surgeryの有用性に関するメタアナリシスを行った[3]。23編,1,316例が解析され,そのうちconversion surgery群:727例(55.2%),non-conversion surgery群:589例(44.8%)であった。全生存に関する検討では16編(conversion surgery群:482例,non-conversion surgery群:554例)において,1年,3年生存率でconversion surgery群が有意に予後良好であった。また,10編の研究で,R0切除群と非R0切除群での生存期間の検討が行われ,R0切除群で1年,3年生存率が有意に予後良好であった。術後合併症に関しては,14編の研究で検討されており,24%の術後合併症が確認された。

 Molfinoらは,非治癒因子,転移形式別にStageⅣ胃癌に対する外科的介入の意義について,36編のシステマティックレビューを行った[4]。P0CY1症例では,リンパ節転移を伴わない症例では長期成績が期待でき,化学療法によりP0CY0へ移行した症例は化学療法単独群よりも良好な予後が期待される。P1症例では欧米でさかんに行われている腹腔内温熱化学療法後の減量手術の有用性がとくに限局した腹膜播種には報告されているが,依然として予後不良な病態である。遠隔リンパ節転移についてはJCOG第Ⅱ相試験により,No.16リンパ節転移(PAN)に対するS-1+CDDP療法後にD2+PAN郭清により,82%のR0切除を得られた[5]。化学療法後の外科的介入が期待できる。

 YoshidaらはStageⅣ胃癌の病態は様々であることから,StageⅣの亜分類を腹膜播種に注目して提唱した[6]。Yamaguchiらは後方視的にStageⅣの亜分類を用いて,conversion surgeryの有用性を検討した[7]。Conversion surgery群は非切除群よりも全生存期間において良好な結果であり,とくにR0切除群ではR1/R2切除群よりも良好であった。現在,StageⅣ胃癌におけるconversion surgeryの意義に関する国際多施設共同後ろ向き研究(CONVO-GC-1)で約2,000例の症例集積が行われ,その結果が待たれる。

 以上より,StageⅣ胃癌に対して,conversion surgeryが生存期間の延長に寄与するかについて検討するランダム化比較試験(AIO-FLOT5試験)は,現在進行中であり,その結果は明らかではなく,エビデンスの強さは「とても弱い」となる。

 また,外科的切除を行うことにより,術後合併症による予後の短縮,胃切除症候群によるQOLの低下,術後の化学療法に対するコンプライアンスの低下,手術,入院費用,術後合併症による入院期間の延長による経費の増額といった「害」があることは明らかである。しかし,外科的切除も化学療法のいずれも保険診療であり,化学療法継続による有害事象の可能性や薬価,通院費用などとの比較は不明確である。患者の希望については,個々の年齢,耐術能や病態によってさまざまであるが,治療成績が保証されるのであればconversion surgeryが選択される可能性がある。

 以上より,エビデンスの強さ,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は,「StageⅣ胃癌症例に対してconversion surgeryを行うことは,化学療法により一定の抗腫瘍効果が得られ,奏効が維持され,R0切除が可能と判断される条件付きで弱く推奨する」とした。


引用文献

[1] Fujitani K, Yang HK, Mizusawa J, et al: Gastrectomy plus chemotherapy versus chemotherapy alone for advanced gastric cancer with a single non-curable factor(REGATTA): a phase 3, randomised controlled trial. Lancet Oncol 2016; 17: 309‒18.

[2] Al-Batran SE, Goetze TO, Mueller DW, et al: The RENAISSANCE(AIO-FLOT5)trial: effect of chemotherapy alone vs. chemotherapy followed by surgical resection on survival and quality of life in patients with limited-metastatic adenocarcinoma of the stomach or esophagogastric junction - a phase Ⅲ trial of the German AIO/CAO-V/CAOGI. BMC Cancer 2017; 17: 893.

[3] Du R, Hu P, Liu Q, et al: Conversion Surgery for Unresectable Advanced Gastric Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cancer Invest 2019; 37: 16‒28.

[4] Molfino S, Ballarini Z, Gheza F, et al: Is there a role for treatment-oriented surgery in stage Ⅳ gastric cancer? A systematic review. Updates Surg 2019; 71: 21‒7.

[5] Tsuburaya A, Mizusawa J, Tanaka Y, et al: Neoadjuvant chemotherapy with S-1 and cisplatin followed by D2 gastrectomy with para-aortic lymph node dissection for gastric cancer with extensive lymph node metastasis. Br J Surg 2014; 101: 653‒60.

[6] Yoshida K, Yamaguchi K, Okumura N, et al: Is conversion therapy possible in stage Ⅳ gastric cancer: the proposal of new biological categories of classification. Gastric Cancer 2016; 19: 329‒38.

[7] Yamaguchi K, Yoshida K, Tanahashi T, et al: The long-term survival of stage Ⅳ gastric cancer patients with conversion therapy. Gastric Cancer 2018; 21: 315‒23.


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