胃癌治療ガイドライン 医師用2021年7月改訂 第6版

Ⅲ章 資料

クリニカル・クエスチョン(CQ)

重要臨床課題 9術後フォローアップの意義

CQ17 術後計画的フォローは推奨されるか?

推奨文

再発の早期発見,生存期間の延長という観点からは胃癌根治切除後に計画的フォローは有用とはいえない。ただし,再発後治療が有効である場合には生存期間の延長が得られる可能性があり,胃切除後の生活指導や胃切除術後障害への対応などを加味し,術後計画的フォローを行うことを弱く推奨する。(合意率100%(8/8),エビデンスの強さD)

解説

 日常診療における計画的フォローに関しては,本邦では以前から積極的に実施されており,胃癌治療ガイドライン第5版でも進行度別のフォローアップ計画が提示されている。しかしながら,欧米特に欧州では計画的フォローは行われておらず,計画的フォローが延命に寄与するという明確なエビデンスは存在しない。本CQでは計画的フォローが再発の早期発見および生存期間の延長に寄与するかどうかをエビデンスをもとに検討した。

 本CQに対する推奨の作成を行ううえで,積極的フォローを行った場合の再発の早期発見,生存期間の延長をアウトカムとして設定した。

 MEDLINEで“stomach”,“cancer”,“surgery”,“follow-up”,“surveillance”,“biomarker”のキーワードで検索した。医中誌,Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2019年9月までとした。上記のキーワードにて252編が抽出された。一次スクリーニングで38編,二次スクリーニングで17編の論文が抽出された。

 計画的フォローに関するランダム化比較試験は1編存在し,総説は5編存在したが,うちシステマティックレビューは1編であった。それ以外は観察研究であり,1編は前向きで,残りは全て後ろ向き研究であった。

 Bjerringら[1]は,胃癌,食道胃接合部癌,膵癌を対象とし,PET-CTを計画的に行うimaging follow-up群とstandard follow-up群に無作為に割り付けし,再発後の腫瘍に対する治療を受けることができた患者割合をprimary endpointとする無作為化比較臨床第Ⅱ相試験を実施した。その結果,imaging follow-up群において有意に化学療法を施行できた患者割合が高率で,無症候性の患者における再発後生存期間が延長していたが,全生存期間には差が認められなかった。しかし,症例数が少なく,疾患に偏りもあるため断定的な結論は得られていない[1]

 再発の早期発見に関する研究は存在しなかったが,Takahashiら[2]は術後補助化学療法に関する臨床試験においてCEA,CA19‒9の再発モニタリングの有用性に関して前向きに検討し,画像診断より早期に再発を予測できることを報告している。

 多くの後ろ向き観察研究では,再発時の症状の有無について検討されており,計画的フォローが行われている場合,無症状群では再発後生存期間が有症状群に比べて長い傾向にある。一方で,無症状群の無再発生存期間が有症状群より短い傾向にあり,手術後の全生存期間では差が認められなかった[3‒7]

 計画的フォローアップにより無症状で再発が確認される症例が増加する可能性はあるが,再発後に治癒が望める治療が存在しない限り全生存期間を延長させることはできない[3]。特に腹膜播種再発ではその傾向が顕著であった[4]

 今後,より有効性の高い化学療法の開発や,conversion surgeryの有効性が確立された場合に,計画的フォローが有用である事が証明される可能性はある。

 このように現時点で計画的フォローによる全生存期間の改善は期待できないが,胃癌術後の生活指導や,胃切除術後障害への対応などを含め,患者QOLの改善,精神的ケアを目的とした計画的フォローは有用と思われる。


引用文献

[1] Bjerring OS, Fristrup CW, Pfeiffer P, et al: PhaseⅡ randomized clinical trial of endosonography and PET/CT versus clinical assessment only for follow-up after surgery for upper gastrointestinal cancer(EUFURO study). Br J Surg 2019; 106: 1761‒8.

[2] Takahashi Y, Takeuchi T, Sakamoto J, et al: The usefulness of CEA and/or CA19‒9 in monitoring for recurrence in gastric cancer patients: a prospective clinical study. Gastric Cancer 2003; 6: 142‒5.

[3] Kodera Y, Ito S, Yamamura Y, et al: Follow-up surveillance for recurrence after curative gastric cancer surgery lacks survival benefit. Ann Surg Oncol 2003; 10: 898‒902.

[4] Fujiya K, Tokunaga M, Makuuchi R, et al: Early detection of nonperitoneal recurrence may contribute to survival benefit after curative gastrectomy for gastric cancer. Gastric Cancer 2017; 20: 141‒9.

[5] Eom BW, Ryu KW, Lee JH, et al: Oncologic effectiveness of regular follow-up to detect recurrence after curative resection of gastric cancer. Ann Surg Oncol 2011; 18: 358‒64.

[6] Bennett JJ, Gonen M, D’Angelica M, et al: Is detection of asymptomatic recurrence after curative resection associated with improved survival in patients with gastric cancer? J Am Coll Surg 2005; 201: 503‒10.

[7] Cardoso R, Coburn NG, Seevaratnam R, et al: A systematic review of patient surveillance after curative gastrectomy for gastric cancer: a brief review. Gastric Cancer 2012; 15 Suppl 1: S164‒7.


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