胃癌治療ガイドライン 医師用2021年7月改訂 第6版

Ⅲ章 資料

クリニカル・クエスチョン(CQ)

重要臨床課題 11切除不能進行・再発胃癌に対する一次化学療法

CQ23 切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤は推奨されるか?

推奨文

切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤併用の有用性を示す比較試験の結果が報告されているが,2020年9月現在,未承認であるため明確な推奨ができない。(合意率100%(7/7),エビデンスの強さB)

解説

 本CQに対する推奨の作成を行ううえで,化学療法未施行の切除不能進行・再発胃癌症例を対象として免疫チェックポイント阻害薬を含む化学療法を行った場合の,生存期間・有害事象・コストをアウトカムとして設定した。重要臨床課題として“切除不能進行・再発胃がんに対する一次化学療法”を設定し,MEDLINEで“Gastric cancer”,“Stomach neoplasms”,“Immune checkpoint inhibitor”,“nivolumab”,“pembrolizumab”,“ipilimumab”,“Lambrolizumab”,“Tremelimumab”,“Ticilimumab”,“Atezolizumab”,“Durvalumab”,“Avelumab”,“Anti-PD-1 antibody”,“Anti-PD-L1 antibody”,“1st line”,“Initial”,“Fluoropyrimidine”,“S-1”,“capecitabine”,“CDDP”,“L-OHP”のキーワードで検索した。Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2000年1月から2019年9月までとした。上記のキーワードにて359編(Cochrane Library263編,MEDLINE130編)が抽出された。これにハンドサーチ2編を加えた361編より,一次スクリーニングで5編,二次スクリーニングで5編の論文が抽出された。また2020年9月に学会報告された2つの臨床試験について追加した。複数のランダム化試験において,一次治療における免疫チェックポイント阻害剤の有用性を示す再現性のある結果が得られており,全体的なエビデンスは強いと判断した。趣向やコストに関する報告はなく評価が困難である。

 免疫チェックポイント阻害剤,特に抗PD-1/PD-L1抗体を胃癌の一次治療として評価した比較試験として,2020年9月現在までにKEYNOTE-062,ATTRACTION-4試験,CheckMate649試験の結果が報告されている[1‒3]。また一次治療における維持療法としての免疫チェックポイント阻害剤を検討したJAVELIN Gastric100試験の結果も報告された[4]。なお,いずれの試験においてもHER2陽性例は除外されている。

 KEYNOTE-062試験は,日本を含む全世界で実施された第Ⅲ相試験であり,HER2陰性,PD-L1陽性(combined positive score, CPS≧1)である未治療胃癌・食道胃接合部癌患者763例が,ペムブロリズマブ+化学療法群,プラセボ+化学療法群(カペシタビン+シスプラチンもしくは5-FU+シスプラチン),ペムブロリズマブ単剤群の3群に割り付けられた[1]。PD-L1発現は22C3抗体を用いた免疫組織染色にて評価され,CPSは,PD-L1を発現した細胞数(腫瘍細胞,マクロファージおよびリンパ球)を総腫瘍細胞数で除し,100を乗じた数値と定義された。主要評価項目は,CPS≧1とCPS≧10の患者集団における全生存期間(OS)と,CPS≧1集団における無増悪生存期間(PFS)であり,標準治療に対する併用群の優越性および単剤群の優越性と非劣性が検証された。最終解析において,併用群の標準治療群に対するOSの優越性は確認されなかった(OS中央値併用群12.5カ月vs. 標準治療群11.1カ月,ハザード比[HR]:0.85,p=0.046:有意水準0.0125かつ中間解析でαエラーを消費)。またPFSにおける優越性およびCPS≧10集団におけるOSの優越性も示されなかった。一方,単剤群と標準治療のOS中央値は10.6カ月と11.1カ月であり,割り当てられたαエラー0.004に基づいて算出されたHRの99.2%信頼区間(CI)の上限が事前に規定された非劣性マージン1.20を下回り,非劣性が示された(HR:0.91,99.2%CI:0.69‒1.18)。一方,高頻度マイクロサテライト不安定性を有するサブグループの探索的な解析において,単剤群の生存期間中央値は未到達,化学療法群は8.5カ月であった(HR:0.29,95%CI:0.11‒0.81)。有害事象発現頻度は全グレードにおいて,単剤群が54%,併用群が94%,標準治療群が92%であった。Grade3以上の有害事象発現頻度はそれぞれ17%,73%,69%であった。以上より,KEYNOTE-062試験では,ペムブロリズマブ単剤療法の化学療法に対するOSにおける非劣性が示され,また探索的な解析であるものの,高頻度マイクロサテライト不安定性を有するサブグループでは効果が高い可能性が示唆された。ただし,本邦においても海外においても,ペムブロリズマブの一次治療としての承認には至っていない。

 CheckMate649試験は,日本を含む全世界で実施された第Ⅲ相試験であり,HER2陽性を除く胃癌・食道胃接合部癌・食道腺癌に対する一次治療において,化学療法(カペシタビン+オキサリプラチン併用[CapeOX]療法もしくは5-FU/レボホリナートカルシウム+オキサリプラチン併用[FOLFOX]療法)をコントロールとして,イピリムマブ+ニボルマブもしくは化学療法+ニボルマブ併用の優越性が検討された。試験途中においてイピリムマブ+ニボルマブ群の登録が中止され,計1,581例が化学療法もしくは化学療法+ニボルマブ併用群に割り付けられた。PD-L1発現は28‒8抗体を用いた免疫組織染色にて評価された。主要評価項目はCPS≧5集団におけるPFSとOSであり,CPS≧5集団のOSが統計的に有意に延長すれば,閉手順を用いてαエラーを副次的な評価項目であるCPS≧1集団,さらには全登録例におけるOSの比較に移行して統計的な解析を行う計画であった。CPS≧5は955例であり,全登録例の約60%であった。CPS≧5集団におけるPFSは化学療法+ニボルマブ群で有意に延長し(中央値7.7カ月vs. 6.1カ月,HR:0.68,98%CI:0.56‒0.81,p<0.0001:有意水準0.02),奏効割合は化学療法+ニボルマブ群で高かった(60%vs. 45%)。また,中間解析においてOSも統計学的に有意に化学療法+ニボルマブ群で延長していた(中央値14.4カ月vs. 11.1カ月,HR:0.71,98.4%CI:0.59‒0.86,p<0.0001:有意水準0.016)。さらに,副次評価項目であるCPS≧1集団もしくは全登録例のいずれの集団においても統計学的に有意なOSの延長が示された(全登録例におけるOS中央値13.8カ月vs. 11.6カ月,HR:0.80,99.3%CI:0.68‒0.94,p<0.0001:有意水準0.007)。CPS≧5集団におけるGrade3以上の治療関連有害事象は59%と44%であった。

 ATTRACTION-4試験は,アジア(日本・韓国・台湾)にて実施された第Ⅱ/Ⅲ相試験であり,HER2陰性の未治療胃癌患者に対する標準治療(S-1とオキサリプラチンの併用[SOX]療法もしくはCapeOX療法)に対するニボルマブの上乗せによるPFSとOSの延長効果が検討された(PFSとOSともに主要評価項目)。第Ⅲ相パートにおいて724例がランダム化され,主要評価項目の一つである中央判定によるPFSの延長が中間解析において示された(PFS中央値;化学療法+ニボルマブ群10.5カ月vs. 化学療法+プラセボ群8.3カ月,HR:0.68,98.51%CI:0.51‒0.90,p=0.0007,有意水準0.014)。最終解析においてもPFSの延長は継続して確認されたものの,OSの延長は示されなかった(OS中央値17.5カ月vs. 17.2カ月,HR:0.90,95%CI:0.75‒1.08,p=0.257:有意水準0.05)。奏効割合は化学療法+ニボルマブ群で高かった(57.5%vs. 47.8%)。Grade3以上の治療関連有害事象は57.9%と49.2%であった。標準治療群の後治療におけるニボルマブもしくはペムブロリズマブの使用割合は27%であり,KEYNOTE-062試験やCheckMate649試験よりも標準治療群のOSが良好であった。

 JAVELIN Gastric 100試験は,未治療の切除不能な局所進行または転移を有するHER2陰性進行胃癌・食道胃接合部癌患者を対象として,日本を含む全世界で実施された第Ⅲ相試験である。導入療法として,CapeOXもしくはFOLFOX療法を12週間投与し,増悪しなかった患者を,アベルマブによる維持療法(アベルマブ群)と一次化学療法の継続かBSCを行う群(化学療法群)にランダム化した。主要評価項目はランダム化された全対象と腫瘍細胞におけるPD-L1陽性例(tumor proportion score, TPS≧1)におけるOSであった。TPSは73‒10抗体を用いて評価された。805例に導入療法が行われ,499例がランダム化された。全対象におけるOSは,有意差を認めなかった(中央値 アベルマブ群10.4カ月vs. 化学療法群10.9カ月,HR:0.91,95%CI:0.74‒1.11,p=0.1779)。TPS≧1集団においても優越性は確認されなかった(n=54,HR:1.13,95%CI:0.57‒2.23,p=0.6352)。探索的な解析において,22C3抗体により評価したCPS≧1集団におけるOS中央値はアベルマブ群14.9カ月vs. 化学療法群11.6カ月であり,アベルマブ群で良好な傾向であった(HR:0.72,95%CI:0.49‒1.05)。Grade3以上の治療関連有害事象は12.8%と32.8%であった。
 2020年9月現在において,一次治療における免疫チェックポイント阻害剤は本邦では未承認であるものの,ニボルマブと化学療法の併用によりCheckMate649試験ではPFSとOSの延長が示され,またアジアで行われたATTRACTION-4試験においてもPFSの有意な延長が示されており,一次治療におけるニボルマブと化学療法の併用の有用性が示されている。2020年9月現在未承認であるため,本書では明確な推奨を提示せず,情報提供にとどめ,承認に至った場合には改めて速報を策定する予定である。


引用文献

[1] Shitara K, Van Cutsem E, Bang YJ, et al: Efficacy and Safety of Pembrolizumab or Pembrolizumab Plus Chemotherapy vs Chemotherapy Alone for Patients With First‒line, Advanced Gastric Cancer: The KEYNOTE‒062 Phase 3 Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol 2020; 6: 1571‒80.

[2] Moehler M, Shitara K, Garrido M, et al: Nivolumab(NIVO)Plus Chemotherapy(Chemo) Versus Chemo as First‒Line(1L)Treatment for Advanced Gastric Cancer/Gastroesophageal Junction Cancer(GC/GEJC)/Esophageal Adenocarcinoma(EAC): First Results of the CheckMate 649 Study. Ann Oncol 2020; 31: S1191.

[3] Boku N, Ryu MH, Oh DY, et al: Nivolumab plus chemotherapy versus chemotherapy alone in patients with previously untreated advanced or recurrent gastric/gastroesophageal junction(G/GEJ)cancer: ATTRACTION‒4(ONO‒4538‒37)study. Ann Oncol 2020; 31: S1192.

[4] Moehler M, Dvorkin M, Boku N, et al: Phase Ⅲ Trial of Avelumab Maintenance After First‒Line Induction Chemotherapy Versus Continuation of Chemotherapy in Patients With Gastric Cancers: Results From JAVELIN Gastric 100. J Clin Oncol 2021; 39: 966‒77.


CQ24 周術期補助化学療法後の再発例に対して,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法は推奨されるか?

推奨文

補助化学療法後6カ月以降の再発例には,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を行うことを弱く推奨する。(合意率100%(5/5),エビデンスの強さC)

解説

 本CQに対する推奨の作成を行ううえで,周術期補助化学療法後の再発症例を対象としてフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用化学療法を行った場合の,タキサン系薬剤±ラムシルマブないしイリノテカンに対する生存期間・有害事象・コストをアウトカムとして設定した。重要臨床課題として“切除不能進行・再発胃がんに対する一次化学療法”を設定し,MEDLINEで“Gastric cancer”,“Stomach neoplasms”,“Immune checkpoint inhibitor”,“Nivolumab”,“Pembrolizumab”,“Ipilimumab”,“Lambrolizumab”,“Tremelimumab”,“Ticilimumab”,“Atezolizumab”,“Durvalumab”,“Avelumab”,“Anti-PD-1 antibody”,“Anti-PD-L1 antibody”,“1st line”,“Initial”,“Fluoropyrimidine”,“S-1”,“Capecitabine”,“CDDP”,“L-OHP”,“Second”,“Recurrent”,“Relapse”,“Refractory”のキーワードで検索した。Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2000年1月から2019年9月までとした。上記のキーワードにて359編(Cochrane Library263編,MEDLINE130編)が抽出された。一次スクリーニングで6編,二次スクリーニングで6編の論文が抽出された。また,本CQに対する推奨の作成にあたっては,奏効割合を含む有効性を最も重視した。前向きの第Ⅱ相試験2件と観察研究のみが報告されているためエビデンスレベルは高いとはいえない。趣向やコストに関する報告はなく評価が困難である。

 大腸癌では,最終投与後6カ月以内の早期再発か6カ月以降の再発かによって治療戦略が異なり,6カ月以降の再発例は,化学療法歴のない切除不能例と同様に一次治療として5-FUおよび新薬を含む標準治療が確立されている。一方,6カ月以内再発例は二次治療の対象として標準治療が構築されてきた。同様に最近の胃癌における臨床試験でも,術後補助化学療法終了6カ月以降の再発例は初回治療例として取り扱われ,術後補助療法後6カ月以内の再発例は二次治療例として取り扱われることが多い。

 胃癌においては,ACTS-GC試験およびCLASSIC試験により,S-1またはCapeOX療法による術後補助化学療法が標準治療として確立され,また病理学的StageⅢ例を対象としたSTART-2試験によりS-1+ドセタキセル療法がS-1よりも再発予防効果が優れることが示された。術後補助化学療法後の再発例に対する標準治療の確立は重要な課題であるが,術後再発例を対象とした比較試験は行われておらず,再発例に対する治療に関するエビデンスは限定的である。一方で前述のように術後補助療法がいずれの治療であっても,術後補助化学療法終了6カ月以降の再発例は初回治療としての治験や臨床試験の対象として取り扱われてきたため,一次治療におけるエビデンスを当てはめることが可能であると考える。

 S-1術後補助化学療法後の再発例57例を検討した多施設の後方視的検討において,S-1術後補助化学療法終了後6カ月以内再発例に対するS-1+シスプラチン併用療法の奏効割合(5%)は,6カ月以降の再発例(37.5%)に比べて低かったとの報告があり[1],術後補助化学療法施行中または終了後早期(6カ月以内)再発症例に対する化学療法には補助化学療法で用いられた同じ薬剤を用いないことについて,エビデンスレベルは低いもののコンセンサスが得られている。

 韓国で実施されたフッ化ピリミジンベースの術後補助化学療法後の再発胃癌患者に対するカペシタビン・シスプラチン併用療法の効果と安全性を評価した第Ⅱ相試験においては,32例が登録され奏効率28%,無増悪生存期間中央値5.8カ月という結果であった[2]。同様に,本邦で実施されたS-1を含む補助化学療法後6カ月以内の再発胃癌に対してのカペシタビン・シスプラチン併用療法の有効性と安全性の評価を行った第Ⅱ相試験においては40例が登録され,奏効率26.7%,無増悪生存期間中央値4.4カ月と報告された[3]。これらの試験は,少数例かつ対照群がないため,フッ化ピリミジンベースの術後補助療法後の再発症例にカペシタビン・シスプラチン併用療法を推奨する十分な根拠とはならないものの一定の効果が報告されているとは考えられる。

 S-1+ドセタキセルによる補助化学療法終了後早期再発例に対する至適な化学療法についても今後の検討課題と考えられる。


引用文献

[1] Shitara K, Morita S, Fujitani K, et al: Combination chemotherapy with S-1 plus cisplatin for gastric cancer that recurs after adjuvant chemotherapy with S-1: multi-institutional retrospective analysis. Gastric Cancer 2012; 15: 245‒51.

[2] Kang HJ, Chang HM, Kim TW, et al: Phase Ⅱ study of capecitabine and cisplatin as first-line combination therapy in patients with gastric cancer recurrent after fluoropyrimidine-based adjuvant chemotherapy. Br J Cancer 2005; 92: 246‒51.

[3] Nishikawa K, Tsuburaya A, Yoshikawa T, et al: A phaseⅡ trial of capecitabine plus cisplatin(XP)for patients with advanced gastric cancer with early relapse after S-1 adjuvant therapy: XParTS-I trial. Gastric Cancer 2018; 21: 811‒8.


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