胃癌治療ガイドライン 医師用2021年7月改訂 第6版

Ⅲ章 資料

クリニカル・クエスチョン(CQ)

重要臨床課題 12切除不能進行・再発胃癌に対する二次化学療法

CQ25 切除不能・進行再発胃癌に対して増悪後の継続薬剤使用(Beyond PD)は推奨されるか?

推奨文

切除不能進行・再発胃癌の化学療法において,S-1,トラスツズマブのBeyond PDは行わないことを強く推奨する。(合意率100%(5/5),エビデンスの強さB)

解説

 本CQに対する推奨の作成を行ううえで,既治療の切除不能・進行再発胃癌症例を対象として不応となった薬剤による化学療法を継続した場合の,生存期間・奏効率・有害事象・コストをアウトカムとして設定した。

 重要臨床課題として“切除不能進行・再発胃がんに対してBeyond PDの薬剤使用は推奨されるか”を設定し,MEDLINEで“Gastric cancer”,“Stomach neoplasms”,“Chemotherapy”,“Beyond progression”,“Trastuzumab”,“Ramucirumab”,“CDDP”,“L-OHP”のキーワードで検索した。Cochrane Libraryも同様のキーワードで検索した。検索期間は2000年1月から2019年9月までとした。上記のキーワードにて83編(Cochrane Library22編,MEDLINE61編)が抽出された。これにハンドサーチ1編を加えた84編より,一次スクリーニングで13編,二次スクリーニングで13編の論文が抽出された。本CQに対する推奨の作成にあたっては,生存期間を含む有効性を最も重視した。薬剤や併用薬は異なるが,S-1やtrastuzumabに関しては複数のランダム化試験が行われており,全体的なエビデンスは強いと判断した。趣向やコストに関する報告はなく評価が困難である。

 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法の治療戦略として,一次治療でフッ化ピリミジン系薬剤を使用した後の二次治療においても,フッ化ピリミジン系薬剤を継続投与することのコンセンサスが得られている。そのために,胃癌においても一次治療に用いられたS-1を継続使用することが一部の日常臨床では行われていた。JACCRO GC-05試験[1]では,S-1継続投与の意義を検証することを目的として,一次治療にS-1単剤またはシスプラチンやドセタキセルなどS-1とイリノテカン以外の薬剤との併用療法が施行された患者に対して,二次治療として,2週毎のイリノテカン単独療法とS-1(2週投与1週休薬)と3週毎のイリノテカン併用療法が第Ⅲ相試験として比較された[2]。その結果,二次治療におけるS-1の継続投与は,生存期間の有意な改善が得られず(生存期間中央値8.8カ月vs. 9.5カ月;ハザード比[HR]:0.99,p=0.92),さらに発熱性好中球減少症や下痢などの有害事象の増強が示された。また,同様の第Ⅱ相試験(CCOG0701)においてもS-1の増悪後の継続投与(S-1+パクリタキセル)とパクリタキセル単独が比較され,S-1継続の有効性が確認されなかった[2]。これらの結果をもってS-1の継続は臨床的意義が否定され,切除不能進行・再発胃癌の二次治療においてS-1の継続投与を行わないことを強く推奨する。

 HER2陽性転移性乳癌では,一次治療としてトラスツズマブが使用されて増悪確認後の二次治療としてトラスツズマブの継続投与の有効性が比較試験において報告されている。HER2陽性胃癌においても後方視的な研究や単アームの試験によってトラスツズマブ継続投与有効性が示唆されていたが[3‒7],本邦で行われたランダム化第Ⅱ相試験(WJOG7112G)においてトラスツズマブの継続投与とパクリタキセルの併用はパクリタキセル単独と比較して主要評価項目の無増悪生存期間(中央値3.7カ月vs. 3.2カ月,HR:0.91)を延長せず,また生存期間(中央値両群10カ月HR:1.2)・奏効割合(33%vs. 32%)も改善を認めず,継続投与の意義は否定的であるため,トラスツズマブ治療中の増悪後の継続投与を行わないことを強く推奨する[8]。一方で,HER2に対する抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンは三次治療以降の有用性が示されている(Ⅱ章 治療法参照)。


引用文献

[1] Tanabe K, Fujii M, Nishikawa K, et al: PhaseⅡ/Ⅲ study of second-line chemotherapy comparing irinotecan-alone with S-1 plus irinotecan in advanced gastric cancer refractory to first-line treatment with S-1(JACCRO GC-05). Ann Oncol 2015; 26: 1916‒22.

[2] Nakanishi K, Kobayashi D, Mochizuki Y, et al: PhaseⅡ multi-institutional prospective randomized trial comparing S-1 plus paclitaxel with paclitaxel alone as second-line chemotherapy in S-1 pretreated gastric cancer(CCOG0701). Int J Clin Oncol 2016; 21: 557‒65.

[3] Al-Shamsi HO, Fahmawi Y, Dahbour I, et al: Continuation of trastuzumab beyond disease progression in HER2-positive metastatic gastric cancer: the MD Anderson experience. J Gastrointest Oncol 2016; 7: 499‒505.

[4] Palle J, Tougeron D, Pozet A, et al: Trastuzumab beyond progression in patients with HER2-positive advanced gastric adenocarcinoma: a multicenter AGEO study. Oncotarget 2017; 8: 101383‒93.

[5] Li Q, Jiang H, Li H, et al: Efficacy of trastuzumab beyond progression in HER2 positive advanced gastric cancer: a multicenter prospective observational cohort study. Oncotarget 2016; 7: 50656‒65.

[6] Ter Veer E, van den Ende T, Creemers A, et al: Continuation of trastuzumab beyond progression in HER2-positive advanced esophagogastric cancer: a meta-analysis. Acta Oncol 2018; 57: 1599‒604.

[7] Sasaki T, Kawamoto Y, Yuki S, et al: HGCSG 1201: phase Ⅱ study of trastuzumab with irinotecan in HER2-positive metastatic or advanced gastric cancer patients previously treated with trastuzumab. Ann Oncol 2017; 28: iii37.

[8] Esaki T, Tsukuda H, Machida N, et al: A randomized phaseⅡ study to assess trastuzumab beyond progression in HER2-positive advanced gastric cancer: WJOG7112G. Ann Oncol 2018; 29: VII55.


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