付 胃悪性リンパ腫診療の手引き


胃悪性リンパ腫の診断

総論

節性・節外性を問わず,悪性リンパ腫の診断の基本は組織診断と臨床病期診断であり,これらは治療法を決定する上で極めて重要である。胃リンパ腫の多くは MALT リンパ腫と DLBCL であり,他のリンパ腫(濾胞性リンパ腫,マントル細胞リンパ腫などの B 細胞腫瘍,また成人 T 細胞白血病リンパ腫などの T 細胞腫瘍)は稀である。ここでは MALT リンパ腫と DLBCL の診断について述べる。
MALT リンパ腫は,胃の悪性リンパ腫の約40%を占める。男女比はほぼ同じであり,発症年齢は平均60歳であるが若年から老年まで幅広い。腹痛や dyspepsia など自覚症状を有するものが多いが,症状を有さず検診で異常を指摘される場合もある。その内視鏡所見は,多発ビラン・潰瘍,褪色調粘膜,早期胃癌類似様,敷石様粘膜,粘膜下腫瘍様隆起,皺襞肥厚など多彩な所見を呈し,同時に複数の病変や複数の所見を呈することも多い。発生病因として,多くは Helicobacter pylori(H. pylori)感染によるリンパ濾胞性胃炎が背景病変と考えられている。そして H. pylori 除菌により胃 MALT リンパ腫の多くは退縮する2)
DLBCL は胃リンパ腫の45~50%を占める。発症年齢中央値は60歳前後である。自覚症状としては腹痛が多いが,嘔吐などの狭窄症状や下血など出血症状を呈する場合もある。内視鏡所見は,潰瘍を呈するもの,1 型・2 型進行癌様の所見,皺襞肥厚を呈するものなどがある。発生病因としては,H. pylori との明かな関連性は認められないが,MALT リンパ腫の成分を病変内に有する例があり,MALT リンパ腫との連続性が考えられている。しかし MALT リンパ腫の成分を認めない,純粋な高悪性度成分のみからなる症例もあり,その発生病因は単一ではない。その場合,一部の症例では EB ウイルスの関与をみることもある。


病理組織診断・遺伝子診断

悪性リンパ腫の診断は,病変部からの生検による組織診断により確定される。病理診断には,通常の HE 染色の他,免疫組織化学として CD3,CD5,CD10,CD19,CD20,CD23,CD79a,CyclinD1,Bcl2 などのモノクローナル抗体による染色が行われる。表面マーカーの検索には生検標本を用いたフローサイトメトリーを行うこともある。また Southern blot 法あるいは PCR 法によって免疫グロブリン遺伝子(重鎖・κ鎖・λ鎖)の単クローン性再構成が認められた場合は B 細胞リンパ腫,T 細胞受容体の再構成が認められた場合は T 細胞リンパ腫と診断される。また,MALT リンパ腫に特異的に認められる t (11;18)(q21;q21)染色体転座すなわち API2-MALT1 融合遺伝子の有無(胃では約20%に認められる)を FISH 法あるいは RTPCR 法で可能な限り検索する注 1

臨床病期診断

消化管悪性リンパ腫の臨床病期は,Ann Arbor 分類を改訂した Masshof の分類や,さらにそれを改訂した Lugano 分類が用いられている3)表 1)。臨床病期診断に必要な検査は,上部および下部消化管内視鏡検査,頸部から胸部および全腹部の CTscan,PET 注 2,腹部超音波検査,末梢血血算,生化学,s-IL2R,骨髄穿刺生検などである。
胃リンパ腫では胃超音波内視鏡検査と H. pylori の検索が追加される。DLBCL(Aggressive NHL)では予後予測因子である International Prognostic Index(IPI)4)により層別化することで,risk adapted therapy を行うことが重要であり,5つの因子〔年齢,病期,血清 LDH,Performance Status(PS),節外病変数〕を正確に把握する。

注 1: MALT リンパ腫の組織診断には Wotherspoon の提唱した histological scoring for diagnosis of MALT lymphoma の WHO grade 分類が普及している。
注 2: PET は有用な検査であり,DLBCL や Hodgkin リンパ腫ではほぼ100%の検出感度が報告されており,新しいリンパ腫の判定基準5)では PET 検査による判定基準が示されているが,MALT リンパ腫をはじめとする indolent リンパ腫(低悪性度リンパ腫)ではその有用性はまだ確立されていない。

表 1 Lugano 国際会議で作成された消化管悪性リンパ腫の臨床病期分類表 4 外科切除例からみた早期胃癌のリンパ節転移頻度(国立がん研究センター中央病院)